東京高等裁判所 平成8年(ネ)653号 判決 1997年10月16日
控訴人
日本マーク株式会社
右代表者代表取締役
山縣延樹
右訴訟代理人弁護士
牛嶋勉
被控訴人
乙山一郎
右訴訟代理人弁護士
神田高
同
井上幸夫
主文
一 原判決主文第二項を次のとおり変更する。
1 控訴人は被控訴人に対し、金二三五一万五三六〇円並びに平成七年七月一日から平成八年一月末日までの間月額金六一万二九八〇円の割合による金員及び平成八年二月一日から本判決確定の日又は平成一一年三月二〇日のいずれか早い日までの間毎月二五日限り月額金七六万二九八〇円の割合による金員を支払え。
2 その余の被控訴人の請求を棄却する。
二 その余の本件控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを二五分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
事実及び理由
一 控訴人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。本件請求中、第二審の口頭弁論終結後本判決確定の日に至るまでの間に発生する金銭債務の履行を求める部分を却下する。その余の本件請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに仮執行免脱宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり敷衍し、付加する他は、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人)
1 控訴人は、被控訴人の解雇理由の一つとして、被控訴人には業務部マネージャーとしての適格性に欠ける数々の言動があったことを主張してきたが、その言動の内容を次のとおり敷衍し、付加して主張する。
(一) マーケティング・セールス部の山村浩が経験した事実
(1) 右山村浩は、平成三年一一月初旬ころ、川崎製鉄に会社製品を販売するため、川崎製鉄のエンジニアに来社してもらい、エンジニアリング部の小林卓哉グループマネージャーに製品のデモンストレーションを実施してもらうこととしていた。山村は、川崎製鉄のエンジニアを会議室に案内して説明した後、小林にデモンストレーションを実施してもらおうとしたが、被控訴人が会議室の近くで小林を捕まえて繰り返し怒鳴っていたので、デモンストレーションを始めることができなかった。山村は、従業員の石井重治に何とかして欲しいと頼んだが、石井は、被控訴人を止めようとするとかえって状況が悪くなると言って、止めに入らなかった。そこで、山村は、川崎製鉄のエンジニアにデモンストレーションの開始が遅れることを謝罪して会議室で待ってもらったが、その間被控訴人の怒鳴り声が会議室の中まで大きく聞こえ、顧客に非常な迷惑をかけるとともに、社内にこのような事態があると顧客に対して極めて恥ずかしい思いをした。
(2) 平成四年三月、経理部マネージャーの渡辺香由美が会社の事務所に飛び込んできて、被控訴人が男子トイレのところで怒鳴っているので止めて欲しいと頼んできた。そこで、山村が男子トイレに行ったところ、被控訴人が清掃人の女性を引き留めて大声で怒鳴っていたので、山村は被控訴人に対し「止めましょう」「戻りましょう」などと言ったが、被控訴人は、大声で「(清掃人を)辞めさせてやる」と言い、ビルの管理人のところに行った。山村が、清掃人から事情を聞いたところ、清掃人が清掃していたところ、被控訴人が手を洗った際付近を水浸しにしてしまったので、清掃人がきれいに使って欲しいと言ったところ、被控訴人が怒って怒鳴り始めたと言うので、山村は「そういうことを言う人なので、すみません」と謝った。その際、男子トイレの近くの他社の社員が出てきており、山村は恥ずかしい思いをした。
(二) 宗教の話を長時間して業務を阻害したこと
被控訴人は、就業時間中、マーケティング・セールス部の山村に対して一時間以上、同じ部の穴沢に対して二時間くらい、それぞれ別の機会に、会社の業務と全く関係のない宗教の話を延々と聞かせたが、山村らは、途中でその場を離れた場合に被控訴人が怒ることが恐ろしくて、話を中断させることができず、業務を行えずに困った。また、近くにいた同部の石井や細金らも業務をじゃまされて困ったが、被控訴人に文句を言うことができなかった。
(三) セクレタリーの身体をたびたび触っていたこと
被控訴人は、社内でセクレタリーとすれ違う際、複数のセクレタリーの身体に故意に触れ、その尻などを触っていた。セクレタリーらは、右の状況を相互に話し合っていたが、山縣社長には言いにくいことであり、被控訴人在職中は報告していなかった。
(四) 面会予約を重ねて入れて、相手やセクレタリーに迷惑をかけたこと
被控訴人に専任のセクレタリーがついた平成三年二月までは、山縣社長のセクレタリーが被控訴人の秘書業務を行っていたが、その間、被控訴人は、採用のための面接者や業者との面会予約を二重三重に入れてしまい、相手やセクレタリーに迷惑をかけることが頻繁にあった。また、被控訴人は、セクレタリーが報告したことを後になって聞いていないと言うことが多く、セクレタリーは困ってできる限りメモを作成して被控訴人に報告するようにした。
(五) 被控訴人のセクレタリーが被控訴人のせいで退職したこと
被控訴人の専任のセクレタリーであったK子は、被控訴人に対しては妊娠したので辞めたいと言って退職したが、セクレタリーらは、妊娠というのは嘘で、実は被控訴人のセクレタリーとして働くのが嫌になって退職したことを知っていた。また、被控訴人の専任のセクレタリーであったN子は、胃潰瘍になって途中で退職したが、他のセクレタリーは、やはり被控訴人のせいでそうなったと思った。
(六) 面接予定を忘れ、迷惑をかけたこと
被控訴人は、採用のための面接者が予定の時間に来社して待っていたにも係わらず、会社の階下の喫茶店に行ったまま帰社せず、セクレタリー二名が終業後退社するためにエレベーターのところで被控訴人とすれ違ったところ、被控訴人は、その時点で、面接予定があったことに気付いて非常に慌てていた。
(七) 出入り業者をたびたび怒鳴ったこと
被控訴人は、電話で出入りの業者を怒鳴りつけることがたびたびあり、セクレタリーらは、そのようなとき被控訴人の傍らにはいたくないと思っていた。
2 中間収入の控除(仮定的主張)
仮に、被控訴人の賃金請求が認められるとしても、その賃金額から、被控訴人が本件解雇後に他で勤務して得た賃金は控除されなければならない。しかして、被控訴人は、少なくとも平成五年六月から現在まで、埼玉県川口市所在のマンションの管理人として勤務し、月額給与三〇万一〇〇〇円以上(統計により推定)を得ている。さらに、被控訴人は、東京地裁平成七年(ヨ)第二一一二八号仮処分申請事件における平成七年七月一九日の第三回審尋期日において、現在働いており、収入は月額一七、八万円(手取り一五、六万円)であると陳述し、右の限度では認めている。
3 定年による雇用契約の終了(仮定抗弁)
仮に、被控訴人が控訴人会社に在籍しているとしても、被控訴人は、昭和一四年三月二〇日生まれで、平成一一年三月二〇日で満六〇歳に達し、同日をもって定年により雇用契約が終了する。よって、控訴人は被控訴人に対し、定年退職日の翌日以降の賃金を支払う義務はない。
(被控訴人)
1 控訴人が控訴審で追加した業務部マネージャーとしての適格性に欠ける言動については否認する。控訴人が一審で敗訴した後に至って主張を追加してきたこと自体、控訴人の主張がいかに理由のない作り話であるかを物語っている。
(一) 被控訴人は怒鳴って業務に支障を与えたことはない。これは、控訴人が一審で主張していた平成四年初めころの小林マネージャーとのやりとりについて原判決が解雇理由にはならないと判断したため、控訴人が新たにねつ造したものにすぎない。
(二) 被控訴人のせいで秘書が退職したことはない。被控訴人の秘書であったK子は派遣社員で当時新婚であったが、妊娠したため退職したのである。また、N子も派遣社員であったが、胃が悪く出勤率もよくなかった。被控訴人のせいで同人が退職したなどということはない。
(三) その他の主張について
被控訴人が、山村らに対して一、二時間にわたり宗教の話をしたなどというのは全くの虚構であり、同人ら社員の業務に支障をきたしたということもない。面会予約を二重三重に入れてしまい頻繁に迷惑をかけたというのも全くの作り話である。また、セクレタリーが被控訴人のために報告用のメモを作っていたことなどない。被控訴人が業務部マネージャーの職務を果たすため、階下の喫茶店で人材銀行の業者などと打ち合わせを行っていたことはあるが、面接予定があったことに気付いて非常に慌てていたというのは全くの作り話にすぎない。被控訴人が、出入り業者をたびたび怒鳴ったというのも全くのでっち上げである。控訴人は、控訴審にいたって、正当な解雇理由を何ら主張し得ないために、セクレタリーの身体を触っていたなどの全く虚構の主張を行っており、被控訴人の人権侵害も甚だしい。これは、控訴人の意図はともかく、控訴人の主張に何らの合理的理由がないことを明らかにするものである。
2 控訴人の主張2も否認する。被控訴人は現在働いていない。
3 同3の主張中、被控訴人の年齢、定年を迎える時期については認める。
三 証拠は、原審並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
四 当裁判所は、被控訴人の雇用関係存続確認請求は理由があるが、賃金請求はその一部について理由がないので一部を棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり敷衍・付加し、訂正する他は、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1(一) 原判決掲記の各証拠並びに(証拠略)、当審における控訴人代表者、被控訴人各本人尋問の結果(各一部)を総合すると、主位的解雇の解雇事由に関しては、以下の事実が認められ、右各証拠中以下の認定に反する部分は採用できない。
(1) S子は、平成四年一月に控訴人に入社して以来被控訴人の秘書であったが、被控訴人はS子が勝ち気な性格の持ち主であると感じており、言葉遣いや態度にその性格に由来する問題点があると考えていたため、同年四月下旬ころ、会議室において言葉遣い等について注意をしたことがあった。また、被控訴人は、その後も、S子が上司である被控訴人に対し、来客がある旨をブースの外から大声で伝えたことについてS子に注意し、他の機会にもマナーについての注意を与えたことがあった。この点について、控訴人は、被控訴人がS子に対し、原判決一一頁二行目(本誌六八八号<以下同じ>20頁3段3行目)から一三頁六行目(20頁4段19行目)までに記載のとおりの言動をしたと主張し、(証拠略)及び原審における(人証略)の証言中には右主張にそう供述部分があるが、これらは(証拠略)や原審における被控訴人本人尋問に照らし、採用できない。
(2) H子は、平成三年四月から九月まで被控訴人の秘書であったところ、被控訴人は真面目で育ちの良さそうな印象を持っていたが、体が弱く、同年九月一九日腹痛を起こし、M子にタクシーで送られて帰宅したことがあり、このため同月二九日に退職した。その後、平成四年一月下旬ころ、横浜市中区の卸会社から、H子が退職した事情の問い合わせがあり、被控訴人がこれに対応した。この点について、控訴人は、被控訴人がH子やH子についての問い合わせをした会社に対し、原判決一三頁八行目(20頁4段21行目)から一四頁八行目(21頁1段10行目)までに記載のとおりの言動をしたと主張し、(証拠略)、原審における(人証略)の証言中には右主張にそう供述部分があるが、これらは(証拠略)や原審における被控訴人本人尋問に照らし、採用できない。
(3) 平成四年三月下旬ころ、被控訴人は控訴人の事務所があるビル四階のトイレの洗面所において、清掃直後の場所で手を洗ったが、その際水を周囲に跳ね飛ばしたことから、女性の清掃人に注意をされたところ、大声でその清掃人を怒鳴りつけて同人と口論となり、さらに管理事務所にまで赴いて担当課長に説明したりし、このため後日清掃会社の理事及び担当課長が控訴人会社の被控訴人を訪れ、陳謝したことがあった。
(4) 平成三年一一月ころ、被控訴人は、健康保険被保険者証の書き換えにあたり、控訴人が依頼していた小口労務管理事務所から、被扶養者が学生である場合には学生証のコピーを添付するよう求められ、以前被控訴人が社会保険事務所に確認したときには不要であるといわれていたことから、小口労務管理事務所とコピーが必要かどうかの押し問答をしたことがあったが、最終的には、同事務所の指示に従い、学生証のコピーを提出した。また、平成四年六月ころ、就業規則の見直しのための原案を作成して小口労務管理事務所を訪れ、小口から二、三点の指示を受けたことがあった。
(5) 平成三年一一月二一日、控訴人の入っているビルの総合自衛消防訓練が行われることになったが、新宿消防署に提出された消防計画では被控訴人は控訴人の防火管理者であり、控訴人代表者(以下「山縣社長」ということがある)が自衛消防組織の地区隊長、被控訴人が副隊長とされていた。ところが、右訓練当日は、従前から被控訴人が担当講師や受講希望者の都合を調整して設定し、自らも受講を希望していたコンピュータの講習会四日間の一日と日程が重なってしまった。そこで、被控訴人は、控訴人従業員の立石源治や荒川貴道に被控訴人の代わりに消防訓練に参加してもらえないかと依頼したが、自分の役割ではないとこれを断られ、結局、当日、被控訴人は最初に講習会に出席し、途中約一時間ほど中座して消防訓練に参加し、再度講習会に戻ってこれを終えた。消防訓練は、特に問題もなく終了した。
(6) 被控訴人は、平成四年初めころ、印刷の発注先について小林卓哉グループマネージャーと会議室入り口前で話し合っていたが、会議室内で顧客に対するデモンストレーションが行われようとしていたので、その妨げにならないようにと考え、会議室の横に回って議論を続けたところ、そのうち被控訴人が激昂して怒鳴り声をあげたため、その声が顧客のいる会議室の中まで届いたことがあった。控訴人は、これにより、営業上悪影響があったと主張し、(証拠・人証略)及び原審及び当審における控訴人本人(ママ)尋問の結果中には右主張にそう供述部分があるが、その悪影響の内容が具体的ではなく、右主張は採用できない。
(7) 平成四年五月一日、被控訴人は、技術スタッフの採用問題及び健康保険関係の加入説明に関する会議の出席のため大阪営業所を訪れたが、午前中、大阪営業所所長松井保と名古屋地域の管轄問題を巡って激しい議論となり、激昂して怒鳴り声をあげた。そこで、松井は山縣社長に電話をして取りなしを依頼し、電話で山縣社長と話した被控訴人はやがて落ち着きを取り戻したので、その後被控訴人と松井は昼食を一緒にとり、午後には予定した会議も滞りなく終了した。
(8) 被控訴人は、研修の責任者であったところ、新入社員の石川覚志に対して平成四年一〇月一日から九日までの大阪研修を終え、同月一二日から東京における研修を実施することになっていた。そこで、被控訴人は、山縣社長に事前に研修内容を説明するとともに、東京研修初日の一二日午前中に石川に対する講義をして貰う了解を得、講義日程等を記載した書面を交付していたが、研修のオープニングには、大阪研修の際に立ち会っていたので、東京研修の際には必要がないと考え、当日、自らの健康診断に出かけていた。他方、山縣社長は、研修日程について被控訴人との間で再確認をするつもりでおり、また、大阪研修の際には被控訴人がオープニングに立ち会ったので、東京研修の際も被控訴人が立ち会うものと考えていたところ、右のとおり被控訴人が立ち会っていなかったので、健康診断から帰ってきた被控訴人を社長室に呼び、研修日程の再確認をしなかったことについて強い口調で叱責したところ、被控訴人から、研修日程等に変更がないのであるから再確認の必要はない等の反論があり、また、被控訴人から、自分は山縣社長より年長者であるとの発言がされた。控訴人は、この際の被控訴人の言動について、原判決一九頁二行目(21頁4段5行目)から二〇頁二行目(21頁4段26行目)までに記載のとおり山縣社長と肩が触れるくらいの距離に立ってもっと強硬な発言をした等の主張をし、(証拠略)、原審及び当審における控訴人代表者尋問中には右主張にそう供述部分があるが、(証拠略)並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果に照らして採用できない。
(9) 被控訴人がマネージャーをしていた業務部では、職務上社印の使用頻度が高かったが、業務部には社印がなく、必要の都度他から借りてきて社印を押印していたので、被控訴人は業務部用の社印を作ろうと考え、山縣社長の了解は後で取ることとして、山縣社長の承諾なく、平成四年七月二七日いろり商事に社印を発注した。そして、同年八月三日、出来上がった社印を山縣社長に見せたところ山縣社長から強く注意され、「業務部で使用する社印を下記の通り届出ます。使用に際しては、管理に十分注意し、迷惑はかけません」と記載した社印使用届(<証拠略>)を作成提出した。その際、山縣社長は右社印使用届を何の留保もなく受領し、社印の使用方法等に制限を付けたことはなかった。この点に関し、被控訴人は、社印作成については事前に山縣社長の了解を得ていたと主張し、(証拠略)、原審及び当審における被控訴人本人尋問中には右主張にそう供述部分があるが、これは、右のとおり社印使用届に「使用に際しては、管理に十分注意し、迷惑はかけません」と記載していること並びに(証拠略)、原審及び当審における控訴人代表者尋問の結果に照らして採用できない。他方、控訴人は、右社印は健保関係の手続にのみ使用すると被控訴人が約束したのに、その他にも使用するというマネージャーとして不適格な行為をしていると主張するところ、(証拠略)、原審及び当審における控訴人代表者尋問中には右主張にそう供述部分があるが、右使用届に記載の文言並びに(証拠略)、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果に照らして採用できない。
(10) 山縣社長は、各部における毎月の活動を正確に把握するために必要と考えて、平成四年六月一六日付書面で、各部のマネージャーに対して、活動内容を詳細に記載したマンスリー・アクティビティ・レポートを、マネージャーのサインを付して、翌月五日までに提出するよう指示を出したが、被控訴人は、マネージャーズ会議において月々の活動報告をする際に資料を添付しており、この他に右レポートを提出する必要性に乏しいと考えていたところ、同月六月分のレポートは後れて七月に提出したものの、サインがされておらず、また、七月分からのレポートの提出は失念してしまい、同年一〇月二七日、全体会議用の資料を七月分から九月分のレポートに代えて提出しようとしたが、山縣社長に受領を拒否された。
(11) 被控訴人は、テレコムインターナショナルの従業員と電話で話していた際に「社長は気が小さいから」「まだ若い」などと述べたことがあり、また、日本マンパワーの従業員にも同様のことを述べたことがあった。
(12) 被控訴人は、保険組合の説明会、コンピユータの購買、人材銀行に行く必要があったときなどに控訴人の事務所から外出し、また、控訴人の事務所内に応接室が二ヶ所しかなく、来客との打ち合わせ場所が足りなくて、同ビル階下の喫茶店で打ち合わせをしたことがあったが、これら席を外す場合に、誰にも断らずに離席することがあり、被控訴人の所在を確認できずに秘書が困惑することがあったので、山縣社長が被控訴人に対して改めるよう注意を与えていたが、改まらなかった。控訴人は、この連絡なしの外出が頻繁にあったと主張するが、頻繁にあったと認めるに十分な証拠はない。
(13) 控訴人は、その他に、当審において、被控訴人が山村浩に対して宗教の話を長時間して業務を阻害したとか、被控訴人のせいでセクレタリーが退職したとか、面会予約を重ねて入れたり、面接予定を忘れてセクレタリーらに迷惑をかけたとか、出入り業者をたびたび怒鳴ったと主張し、(証拠略)及び当審における控訴人代表者尋問中には右主張にそう供述部分があるが、当審における被控訴人本人尋問の結果に照らして採用できない。また、控訴人は、当審において、被控訴人がセクレタリーの身体をたびたび触ったとも主張するが、右主張事実はその年月日も特定されておらず、状況も不明で極めて曖昧な主張であるといわざるを得ない。
(14) 他方で、被控訴人は、平成二年八月二〇日に控訴人に業務部マネージャーとして採用されて以来、控訴人の社員の確保に努め、そのためもあって、控訴人の社員数は、本件主位的解雇がされた平成四年一〇月当時には、被控訴人入社当初の約二倍になっており、その間には大阪営業所も設立されて控訴人の会社規模が拡大し、また、被控訴人が社員の福利厚生に力を注いだこともあって、平成四年四月には全国情報処理産業健康保険組合に、同年六月には全国情報処理産業厚生年金基金にそれぞれ加入することができ、これによって控訴人の福利厚生は格段に充実したのであり、さらにまだ実を結ぶまではいかなかったものの、在庫発送、販売業務のシステム化のためのマニュアル作りを試み、社員教育制度の案や就業規則の案を作るなどをした。
(二) 右認定によれば、被控訴人は、頑固で自己の意見ややり方をなかなか曲げようとせず(前示(4)、(5)、(8)、(12))、いささか自制心に乏しくて激昂しやすい性質を持っており(前示(3)、(6)、(7))、時として独断専行になることもあった(前示(9)、(10))し、社長の悪口をいうこともあった(前示(11))が、他方で、前示のとおり控訴人会社の発展のために努力をしており(前示(14))、右独断専行については特に処分等を受けたこともなく(なお、<証拠略>によれば、控訴人の就業規則七二条には、従業員に対する処罰(処分)として、譴責から解雇まで七種類が定められている)、悪口についても特段咎め立てしなければならない程のものとも考えられないし、頑固で激昂しやすい性質があってしかも年上であるから、上司である山縣社長としては使いにくいマネージャーであったことは十分に推測できるのであるが、だからといって、右のような被控訴人が「就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる」(就業規則一八条七号)ということはできないのである。控訴人の主張する主位的解雇は採用できない。そして、予備的解雇は理由がないことは原判決の説示するとおり(原判決四五頁一〇行目(25頁4段24行目)から四六頁末行(26頁1段18行目)まで)であるから、被控訴人の雇用関係存続確認請求は理由がある。
2 中間収入の控除(仮定的主張)について
控訴人は、被控訴人が、少なくとも平成五年六月から現在まで、埼玉県川口市所在のマンションの管理人として勤務し、月額給与三〇万一〇〇〇円以上を得ていると主張するところ、(証拠略)によれば、右のとおりの場所で被控訴人が勤務していたことは認められるものの、その収入金額を認めるに足る証拠はない。さらに、控訴人は、被控訴人が、東京地裁平成七年(ヨ)第二一一二八号仮処分申請事件における平成七年七月一九日の第三回審尋期日において、現在働いており、収入は月額一七、八万円(手取り一五、六万円)であると陳述し、右の限度では認めていると主張するところ、(証拠略)によればその主張どおりの事実が認められるのであるが、他方で、被控訴人は当審の平成八年七月三日付準備書面において「現在は働いていない」と主張するところ、本訴において被控訴人は一貫して右稼働の期間や収入等を明らかにしようとしなの(ママ)で、収入額や収入のあった期間が明らかではないのであるが、右証拠や主張態度等から、被控訴人の稼働期間は、(証拠略)の基となった調査がされた平成七年一月一日から訴訟が当審に係属する直前の平成八年一月末日まで、賃金額は控え目にみて月額一五万円と認定して計算すると、原審口頭弁論終結の日の直前である平成七年六月末日までの賃金合計額二四四一万五三六〇円から九〇万円(月額一五万円の六ヶ月分)を控除した二三五一万五三六〇円、平成七年七月一日から平成八年一月末日までは月額七六万二九八〇円から一五万円を控除した月額六一万二九八〇円の割合による金員、平成八年二月一日から本件判決確定の日までは月額七六万二九八〇円の割合による金員を、毎月二五日限り支払うことを命じるのが相当である。そうすると、控訴人の控訴は、右九〇万円及び平成七年七月一日から平成八年一月末日まで被控訴人の請求額から月額一五万円の割合による金員の控除を求める限度で理由がある。
3 定年による雇用契約の終了(仮定抗弁)について
控訴人は、被控訴人は、昭和一四年三月二〇日生まれで、平成一一年三月二〇日で満六〇歳に達し、同日をもって定年により雇用契約が終了するから、被控訴人に対し、定年退職日の翌日以降の賃金を支払う義務はないと主張し、被控訴人の年齢及び定年を迎える時期については当事者間に争いがないところ、右控訴人の主張については、被控訴人は、本訴において、控訴人の従業員たる地位を有することを前提に賃金請求をしていたことは明らかであり、当審に至って被控訴人の定年が迫ってきて、本訴提起段階では明確ではなかったが当然の前提とされていたものが具体的に浮かび上がってきたので、控訴人がこのような主張をしたものであるから、当裁判所は、これを認め、原判決主文第二項記載の「本判決確定の日に至るまで」を「本判決確定の日又は平成一一年三月二〇日のいずれか早い日までの間」と変更することとする。
五 以上のとおりであって、控訴人の本件控訴は前示四の2、3記載のとおり一部について理由があるので、原判決を本判決主文第一項記載のとおり変更して、右部分の被控訴人の請求を棄却することとし、その余の本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九二条を適用し、仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 佃浩一 裁判官 髙野輝久)